読み物・建築
重要文化財・道後温泉本館の建築 ― 四つの棟と、営業しながらの保存修理
一見ひとつに見えて、実は明治から大正まで四つの棟が組み合わさった道後温泉本館。神の湯本館棟・又新殿・南棟・玄関棟の構成と、営業を続けながら行われた保存修理工事までを、一次資料にもとづいてたどります。
四つの棟が組み合う「複雑な建物」
道後温泉本館は、一見ひとつの建物に見えて、じつは用途も竣工年も異なる四つの棟が相互に接続した、複雑な構成をとっています。1894年(明治27年)に建てられた中心部から、大正期の増築まで、時代の異なる棟が継ぎ足されてきました。1994年(平成6年)に国の重要文化財に指定されたのは、この神の湯本館棟・又新殿霊の湯棟・南棟・玄関棟の四棟です。
神の湯本館棟 ― 明治27年の三層楼
中心となる神の湯本館棟は1894年(明治27年)の竣工。木造三階建てで、1階を浴場、2階と3階を休憩室とし、入母屋屋根の上に塔屋を戴きます。道後湯之町の初代町長・伊佐庭如矢の英断と、城大工・坂本又八郎の棟梁仕事によって生まれたこの三層楼は、当時としては大変珍しがられました。3階の北西端には、のちに夏目漱石が使ったとされる「坊っちゃんの間」があります。
又新殿・霊の湯棟 ― 日本唯一の皇室専用浴室
東側の又新殿・霊の湯棟は1899年(明治32年)の竣工。銅板葺と檜皮葺の木造三階建てで、日本で唯一の皇室専用浴室「又新殿(ゆうしんでん)」を備えています。2階には「玉座の間」があり、格式ある意匠が凝らされています。一般の共同浴場に、皇室のための特別な浴室が併設されているのは、道後温泉本館ならではの特徴です。
南棟・玄関棟、そして塔屋の太鼓
南棟と玄関棟はともに1924年(大正13年)の竣工で、明治の本館に大正期の増築が重ねられた歴史を物語ります。神の湯本館棟の屋上にそびえる塔屋は「振鷺閣(しんろかく)」と呼ばれ、朝6時・正午・午後6時の1日3回、刻太鼓(ときだいこ)が湯の町に時を告げます。この音は1996年(平成8年)に「残したい日本の音風景100選」に選ばれました。
「営業しながら」の保存修理
築120年を超えた本館は、2019年(平成31年)1月15日から保存修理工事に入りました。特筆すべきは、営業を続けながらの工事だったことです。建物を工事用の素屋根で覆い、その素屋根には手塚治虫の漫画『火の鳥』をモチーフにした「道後REBORNプロジェクト」(松山市・手塚プロダクション・ポニーキャニオン)のアートが施されました。工事は段階的に進み、2024年(令和6年)7月11日に全館営業を再開しています。
※ 各棟の公開範囲・見学料・入浴料は変わる場合があります。最新の情報は道後温泉本館の詳細ページと公式情報をご確認ください。
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出典・参考資料
最終確認: 2026年7月